東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1086号 判決
1(一) ≪証拠≫によれば、被控訴人石津は昭和四九年六月七日から一五日ごろにかけて、本件建物東側の南北に走る朽廃した土台全部をとりかえ、その上に立つ柱に少くともつぎかえを行い、その外壁面の羽目板をカラー鉄板にふきかえ、東側書斉の天井と床板をはりかえ、窓をアルミサツシとしたことが認められ<る。中略>
(二) ≪証拠≫によると、被控訴人石津は同年六月八日から同月二三日までの間に、本件建物北西隅の台所北側に存在したガラス戸付の出入口とその北側に接続した南北三尺東西一間の建増部分とを撤去し、台所北西隅の腐っていた柱を角材にとりかえ、北側に東西に走る壁の土台を全部交換し、その上に存する北西隅寄りの腐った柱も一本とりかえ、この外壁にトタン板をはり、台所西側に南北に走る壁の土台もとりかえ、その上に存する北西隅寄りの柱の下部一メートルをつぎかえて、この柱と北西隅の柱との間に新しいガラス戸入りの出入口をつけ、この外壁にトタン板をはり、アルミサツシ窓をつけ、台所の土間をつぶして全部の床をはりかえ、天井板をつけかえ、トタン屋根をふきかえたことが認められる。<中略>
(三) ≪証拠≫によれば、同被控訴人は当時、本件建物玄関外から向って右の柱の下部一メートルをつぎかえ、玄関木の開き戸をアルミ引き戸にいれかえたことが認められる。
(四) ≪証拠≫によると、被控訴人石津は同年七月中旬、かねて雨もりがはげしい本件建物の屋根工事に着手したが、控訴人の抗議により一旦中止し、同年八月一〇日すぎから数日間かけて階下及び二階の日本瓦を全部とり外し、下地の板をふきかえ、セメント瓦をのせ、トタン屋根の部分も屋根板をとりかえたことが認められる。
(五) ≪証拠≫によると、右工事の総費用は約七六万円であったことが認められる。
2 右工事の態様をみると、被控訴人石津は腐った土台と二本の柱とを全部とりかえ、数本の柱につきつぎ足しを行い、屋根の下地板及び瓦、トタンをふきかえ、その他外壁面、室内床板をはりかえ、北西角の出入口をつけかえ、玄関の戸、その他の窓をあらたにする等、各種の改良工事を行っており、とくに土台や柱をとりかえたことは、建物の基本的構造部分を改め、これにより本件建物の耐用年数を延長させたものと推認される。このような事実関係にかんがみると、右工事は、全体としてこれを観察した場合、前記増改築禁止特約条項にいう建物の改築に該当するといわざるを得ない。
三 本件改築工事の反信義性の有無
1 ≪証拠≫によると、次の事実が認められる。
控訴人の夫山下金平は被控訴人石津から本件建物中原判決別紙図面赤線で囲まれた部分を賃借し、控訴人とともに居住使用してきたが、右建物の他の部分を使用していた早川某、被控訴人らとはとかく円満を欠き、もめ事が絶えず、とくに控訴人は、昭和四七年三月本件土地所有権を取得してからは、同年五月被控訴人石津の本件建物屋根のぬりかえ、同年一〇月その玄関の扉のとりかえにも強硬に反対するなど、同被控訴人との間柄は一層険悪であった。
被控訴人石津は娘夫婦一家すなわち被控訴人松原一家とともに本件建物に居住してきたが、雨もりすき間風が甚しく、羽目板・天井板も古くなったので、屋根・玄関扉部分等の補修工事及び羽目板取替工事のみの実施を考えたものの、従前のいきさつにかんがみ控訴人との間に深刻な紛争を起すのをおそれ、昭和四九年五月控訴人を相手取り東京地方裁判所に右工事妨害禁止仮処分等を申請し、同年五月八日控訴人との間で控訴人は被控訴人の行う右工事を妨害しない旨の裁判上の和解を結んだ。
被控訴人石津は当時右以外の工事を考えていなかったが、同年六月以降建築業者に着工させたところ、右業者から土台・柱・屋根下地板・屋根瓦が弱っていることを理由にその取替をすゝめられて、その取替えをも含む右工事を実施したものであり、その際控訴人の同意を得ず、又借地法八条の二第二項の申立てもしなかった。
以上の事実が明らかであ<る。中略>
2 被控訴人石津は、本件建物の雨もり・すき間風を防ぎ日常生活の快適さを確保するためのいわば保存工事ともいうべき程度の工事を当初考えていたところ、建築業者のすすめにより工事の範囲を拡大して前記認定のような工事となったものであるから、本件工事は、改築禁止条項に触れるといっても、さして計画的になされたものでもなく、その動機も無理からぬところがある。
もとより、同被控訴人が裁判上の和解の際当事者双方が予想した範囲をこえて右条項に反する程度の工事を実施しながら、控訴人の同意も求めず、又これに代る借地法八条の二第二項所定の借地条件変更の申し立てもしなかったことは、控訴人との間の長年の確執を考慮しても決して好ましいことではない。
しかし、右改築工事は、借地人の土地の通常の利用上相当の範囲にあり、かつ建物の耐用年数を伸ばすとはいえ、工事の程度にてらし、賃貸人に及ぼす影響が著しいとまでは断定できない。これらの事実と前記の各事実を併せると、結局右工事は賃貸人に対する信頼関係を破壊するような背信行為には当らないというべきである。
(川島 沖野 田尾)